地下水の放射性炭素年代測定は過剰揚水による帯水層の汚染や枯渇を未然に防ぐための有用なデータを提供します。 モデル事例、 井戸の汚染と復旧 (pdf)も参照していただければ幸いです。
地下水の放射性炭素年代によって、一般的な化学成分分析、同位体分析と同様重要な情報を得ることができます。地下水の放射性炭素年代は、複数地点での同時測定・同じ地点での連続観測によってより意味のある情報を提供します。 データを単一の絶対年代として見るのではなく、相対的な変化を捉えることが重要です。
複数地点での同時測定を行った場合、みかけC14年代(apparent age)の涵養域からの距離に応じた変化によって、フローレートの確認をするのと同時に、ある地点での過剰揚水の可能性の有無を検討することができます。一年に一度または半年に一度というような連続観測では、年代の経時的な相対変化を追うことによって、ある帯水層に他の帯水層からの混入がないかを検討することが可能です。年代が若くなる傾向がある時は、より浅い帯水層から新しい地下水を引き込んでいる可能性が考えられます。
地下水の放射性炭素年代は、涵養域から採水地点までの滞留時間を意味しています。しかし、二次的に付加される無機炭素などの不確定な要因によって、絶対年代を決定するのは困難です。そのため、地下水の放射性炭素年代は複数地点の測定または連続観測による年代の相対的な違いを検討することが一番良い方法です。その際は、同位体補正を行っていない、みかけC14年代(apparent age)を用います。 絶対年代という観点からいえば、一般的にみかけC14年代はその地下水がそれより古くはない(maximum age)ということを示唆しています。
地下水の放射性炭素年代測定では、溶存無機炭素を抽出してそのC14を測定します。年代値は滞留時間はもとより、流向、流量率も示唆します。適用可能な年代幅は10年~4万年程度です。
降水・表層水が地下に浸透する時、大気中の二酸化炭素をわずかに含んでいます。土壌中の空気との接触により取り込む二酸化炭素の方がより多いといえます。その時点での放射性炭素はModernであると想定され、年代の算出の基準となります。
化石由来の炭素を含む石炭層などの対水層の地下水は、不確定要素が避けられないため、放射性炭素年代測定の適用は難しいといえます。また、無機炭素がガスとして容易に抜けてしまうような環境の表層水でも放射性炭素年代の適用は困難です。
免責事項:この動画はサードパーティーのサービスを利用しているため広告が表示されることがあります。
人口が増加するにつれて水の利用量も急激に増えます。 行き過ぎた開発は、最終的には水の供給量の減少につながり、その影響は涵養域から遠い地区にさえ大きな影響を与えます。 高い生産性を追い求めて土地の開発を進めた結果、 開発が涵養域にまで及び、 水の需要に追いつくために新しく掘削された井戸の揚水量が涵養量を超えると、たちまち水不足の問題につながる可能性があります。 井戸水の放射性炭素年代を定期的に調べることによって、 深刻な事態に陥る前に水の利用量が適切かどうかを予測することができます。 従来の方法ではいったん開発が進んでしまうとなかなか使い過ぎを防ぐのは困難でした。 なぜなら使い過ぎかどうかを見極めること自体が難しいからです。 放射性炭素年代測定は誰にでもわかりやすい方法でこの問題を解決します。
図1- 涵養域からの距離と放射性炭素年代の関係(概念図)。この図はある地下水流動系において3か所でくみ上げを行った場合のモデルです。3番目の井戸で過剰揚水を行った結果、浅層地下水を引き込んでしまっています。
定期的に放射性炭素年代を測定することによって、 地下水の供給源の変化をチェックすることができます。 つまり年代値が若くなっていく傾向にあれば、 対象の帯水層が新しい水を引き込んできている可能性があります。 このような現象は、例えば過剰な揚水や、新たに井戸がたくさん掘削されることによって起こります。
図2 – 井戸の地下水放射性炭素年代の経時変化(概念図)。このモデルでは1995年に新たな井戸のシステムが導入され揚水量の増加がありました。それ以降帯水層への浅層地下水の混入が始まったことが放射性炭素年代によって明らかにされました。
特定の帯水層を6ヶ月ないし12か月の間隔でモニタリングし放射性炭素年代測定値の経年変化を調べることが理想です。地下水にはもともと放射性炭素が存在しているので何もトレーサーを付加する必要がありません。そして汚染が始まる前に現象をとらえることが可能です。井戸の汚染や枯渇を未然に防ぐことができるので井戸管理の観点からするととても合理的で経済的な調査方法です。