歴史学、考古学、人類学は区別されますが、それぞれが密接に関係しており、現在を生きる人々に過去の知見を与えるという点で共通しています。
歴史学は過去の事実を主に文献資料から解明し、人類学は人類の進化や生物学的側面、社会的・文化的側面を研究します。考古学は主に実際の発掘現場から得られる資料、遺物の調査、地質学的解釈などによって、文字の記録のない時代も含めて、人類の過去を解明することを目的とします。考古学は、書物には書かれていない人類の過去が解明することで、他の科学とは異なる方法で人類の歴史を充実させてきました。
人類の過去の生活や行動を記録した遺物を調査することは、他の自然科学の分野にとっては重要ではないことのように思えるかもしれません。
しかしながら考古学において人類とは何かということを解明するという目的は、単なる宝探し、情報収集や年代の決定の範疇を超えた崇高な試みです。歴史は繰り返さないということを明らかにするための鍵となる過去の文化の存在を無くすものが何かは分かっています。
炭素14を測定する放射性炭素年代測定、年輪年代、地磁気年代、ルミネッセンス年代、黒曜石年代測定などは考古学研究において時代を確定するという重要な役割を担ってきました。 放射性炭素年代測定は50年ほどの歴史があり、考古学における様々な革新的発見に貢献してきました。現在においてもなお、放射性炭素年代測定は考古学にとってなくてはならない手法のひとつです。
炭素年代測定で測定される炭素14は、炭素の同位体のひとつで放射性物質です。
植物は光合成によって炭素14を含んだ二酸化炭素を取り込み、動物も食物連鎖によって炭素14を取り込みます。それら生物の生命が終わると、生物圏との炭素のやりとりも終了し、その時から炭素14はその放射性崩壊の割合に従って減っていきます。試料に残っている炭素14を測定することによって、その生物の死後の経過時間がわかるのです。
放射性炭素年代測定結果は、AD1950を基準年としてさかのぼるかたちで、BPという単位で表されます。また、暦年代較正を行うことによって放射性炭素年代を暦年代に較正することができます。 そうして得られた年代情報が考古学年代と関連付けられ検証されます。
考古学研究者がこうした炭素年代測定を手法として採用するかどうか決定する前に、この手法が考古学的な疑問に答えられるものかどうか検討する必要があります。つまり、試料の “放射性炭素濃度” がいったい考古学においてはどういう意味を持つのかということです。
試料の放射性炭素年代と、知りたいイベントの年代が必ずしも直接的な関係があるとは限らないということも考慮しておかなければなりません。試料とそれに纏わる背景、前後関係との関係は必ずしも単純ではありません。
炭素年代測定で判明した試料の年代が背景より古くなる場合があります。例えばある遺構の年代を知りたい時、そこから採取した木が既に生物圏との相互作用を終えてしまっていた場合は、その木と遺構との年代が完全に一致するとは限りません。試料と遺構の関係が明快ではない場合や、簡単にはわからないこともあります。そのため、炭素年代測定を行う場合は、背景と事象の関係、事象と試料の関係を十分に検証する必要があります。
また、考古学者は発掘調査の現場でやみくもに試料採取を行うのではなく、調査の目的にかなった試料を採取する必要があるということを理解していなくてはなりません。
利用可能なマンパワー、時間、資金などをできる限り有効に活用するため、考古学試料の放射性炭素年代測定を行う際、調査を行う方は以下のことについて、測定機関との協議を行うことが重要です。
1. 試料の種類やサイズ
物質によっては炭素年代測定に適さないもの、測定不可能なものなどがあります。またサイズについての制限があることがあります。 また試験所によって、必要な試料の量や好ましい試料の状態には違いがありますので事前に試験所と相談されることをお薦めいたします。例えば、試験所によっては送付する前に試料を乾燥させる必要があります。 一方、湿潤状態の試料でも問題なく受け入れる試験所もあります。
2. 試料のサンプリング
試料の汚染を避けてサンプリング・保存を行うことが重要です。炭化水素、炭素を含む接合剤、殺虫剤、ポリエチレングリコールなどと試料の接触は避けなければいけません。紙や脱脂綿、たばこの灰なども試料の汚染の要因となります。
3. 試料の保存
輸送、または長い期間保管する必要が生じた場合でも試料が破壊されないようにパッケージされなければいけません。パッケージのラベルは剥がれたり消えないように注意しなければなりません。ガラス製の容器で保存する際は、容器が破損しないように注意しなければいけません。 スクリューキャップ付きのアルミニウム製容器は、輸送の際壊れる心配がありません。しかしいずれの場合でも、試料を送る前に、最適な容器は何かを試験所に確認することが一番良い方法です。保管方法について不明な点がある場合は炭素年代測定機関に相談することをお勧めします。
4. 誤差と較正
年代測定を行う方は、試験所の結果に系統誤差やランダム誤差がないか確認しておくことをお薦めいたします。また、使用される暦年代較正プログラムについての確認も必要です。
5. 費用
炭素年代測定に係るすべての費用を明確にしておきましょう。 試験所によっては処理に応じて追加料金が発生する場合があります。
6. 納期
試験所によって分析にかかる日数が異なります。事前に納期を確認することをお薦めいたします。
7. 試料の同定
放射性炭素年代測定は破壊分析です。試料の同定が必要な場合は年代測定に提出する前に行っておきましょう。
8. 汚染の可能性
発掘現場の状況、発掘方法などについて測定機関と相談することによって、試料の汚染の可能性についての情報が得られることがあります。それは試料の前処理について有用な情報となる可能性があります。
9. 予想される年代
試験所によっては、クロスコンタミネーションを避けるためにあらかじめ試料の予想年代が必要となる場合があります。それによって、非常に古い年代の試料と、モダンサンプルの連続分析を避けることができます。 また、暦年代に大きな幅の出てしまう可能性のある試料の測定を避けることが可能です。較正曲線が平坦な個所に炭素14年代が該当すると、暦年代が広範囲に渡ってしまう可能性があります。
放射性炭素年代の解釈は簡単に行かないことがあります。
時には放射性炭素年代が”考古学的には受け入れられない”とみなされることがあります。 そういった場合、遺跡の年代学的な評価を行った上で放射性炭素年代測定結果が採用されないこともありました。
放射性炭素年代法の結果は“考古学的に受け入れられない”場合も考慮し、試料が汚染されていなかったかどうか、生息年代とイベントのずれ(例えば古木効果、木材の再利用)などが検討されるべきです。
免責事項:この動画はサードパーティーのサービスを利用しているため広告が表示されることがあります。
救出考古学は、建設工事や開発工事に伴い貴重な考古学的発見があった場合、その調査および保存を目的とする発掘などを緊急に行うことを意味します。工期の差し迫った工事や開発の場合、利害関係者は発掘調査をできるだけ早く終えることを要求するため、それに関わる考古学者は時間に追われた環境での調査を強いられることになります。
大変貴重な発見につながる可能性がある状況下で、発掘調査の継続を開発者に対して正当化するためには、高品質な放射性炭素年代測定を迅速に行う必要があります。救出考古学のような時間的制約のある環境では、数か月もの間、結果を待つために工事を中断するなどということは不可能ですし、工事の中断は経済的な負担の増加にもつながりかねません。したがって考古学者はプロジェクトの要求する期限をクリアできる放射性炭素年代測定試験所が必要となります。
参照文献:
Grahame Johnston, Rescue Archaeology (2015), Archaeology Expert, (accessed June 2018)
Sheridan Bowman, Radiocarbon Dating: Interpreting the Past (1990), University of California Press
さらに詳しく: