加速器質量分析法(AMS法)による放射性炭素年代測定

  • 加速器質量分析法では、高エネルギーでイオンを加速し質量分析を行います
  • 加速器質量分析法(AMS法)は、放射能分析法(Radiometric法)と比較すると高価ですが、より高精度で、微量試料の測定も可能です
  • 加速器質量分析法(AMS法)は、地質学、考古学などの他に、海洋学、生物医学の分野でも用いられています

放射性炭素年代測定 の測定方法には放射能分析法(Radiometric法)と加速器質量分析法(AMS法)があります。どちらの分析法も地質試料などの放射性炭素(C14)の濃度を測定するのに利用され、いずれの放射性炭素年代測定法もシュウ酸などの標準試料を基準にします。放射能分析法でも質量分析法でも、放射性炭素年代測定において高品質な年代を得ることができますが、根本的な原理が異なります。

放射能分析法(Radiometric法) では炭素14の放射性壊変で放出されるβ線を計測するのに対して、加速器質量分析法(AMS法)では炭素14原子を直接計数します。 放射能分析法にも質量分析法にも、それぞれ長所、短所があります。

加速器質量分析法(AMS法)とは

質量分析法は、原子量に応じて質量を分析する方法です。しかし質量分析法では、同重体(原子番号が異なるが質量が等しい核種:例えば炭素14と窒素14) を区別できません。

原子物理学の進歩によって、質量分析計は質量が類似する核種から特定の核種のみを分離し、分析できるように改良され、現在の加速器質量分析法が誕生しました。この質量分析法によって、提供された試料の放射性炭素のみを検出することが可能となり、炭素14の測定を困難にしていた同重体の存在を考慮する必要がなくなりました。

上記のような理由で放射性炭素年代測定にAMSを用いた質量分析法が盛んに利用されるようになりました。

加速器質量分析装置(AMS)の仕組み

加速器質量分析装置 (AMS). による放射性炭素年代測定では、(1)イオンを高エネルギーで加速し、(2)質量分析を行います。

放射性炭素年代測定の質量分析法において一般的に使用される加速器には、サイクロトロン加速器とタンデム加速器があります。

タンデム加速器を使用したAMS放射性炭素年代測定

放射性炭素年代測定の際、加速質量分析装置で使用できるよう、測定試料から固形のグラファイトを調製します。具体的には、前処理をした試料を用いて、燃焼または酸性化し、CO2を生成後、金属触媒による還元によりグラファイトが調製されます。グラファイト調製時に、試料を燃焼を行いますが、その際、試料に窒素14(N14)などの元素も取り込まれます。

試料を用いて調製された数ミリグラムのグラファイトは、金属ディスクに充填されます。この時に放射性炭素年代測定を行う試料の他に、標準試料・バックグラウンド試料も金属ディスクに充填します。こうした金属ディスクがターゲットホルダーに取り付けられ、AMS測定が行われます。

セシウムガンからイオンがターゲットホルダーに照射され負イオン炭素を生成します。その後、加速器部に導入される前に、インジェクション・マグネット、その他装置を通過します。 この段階で、他の不安定な負イオンは除去されます。負イオン炭素原子は、加速器部に導入され、ガスまたは金属フォイルのストリッパにより陽イオンに変換されます。その際に、同じ質量の分子イオン(13CHなど)は取り除かれます。+3価のイオンのみが選別され、さらに装置を通過して、質量分析を受けます。

質量分析法では、磁場を通過することによって、質量を選別します。原子が磁場を通過する際、軽い質量の原子は重い質量の原子よりよく曲がります。

炭素14年代測定のAMSでは、14C、13C、12Cの同位体比を測定します。

AMS法による放射性炭素年代測定の長所

AMSを使用した質量分析法で行われる放射性炭素年代測定法では、放射能分析(Radiometric法)と比較し、非常に少ない炭素量で測定が可能です。従来の方法では、木材や炭化物の場合少なくとも10g、骨や堆積物 の場合100g程度の試料が必要でしたが、加速器質量分析(AMS)で必要とされる試料の量は、試料の種類によって20mg~500mg(最小100μg炭素)です。

つまり、加速器質量分析法(AMS法)では、従来法の1/1000の試料での測定が可能なのです。

微量で分析が可能な加速器質量分析(AMS)法は、少量の遺物を扱う考古学者や、非常に高価または希少な試料を扱う研究者に好まれている分析法です。

また、非常に感度が高く、微量な試料(有孔虫化石、種一粒)などでも測定可能です。

放射性炭素測定にかかる時間も、放射能分析(Radiometric法)を用いた測定時間が1-2日、AMSを使用した質量分析法では2-3時間/試料と、大幅に少なくなります。

また、放射能分析(Radiometric法)と比較し、高い精度を得ることでき、低バックグラウンドでの測定が可能です。

加速器質量分析装置(AMS)による放射性炭素年代測定の短所

加速器質量分析装置は、放射能分析(Radiometric法)に比べ装置・維持コストが高価です。 AMSを1基を維持するのには数億円の費用が必要です。

また、微量な試料で測定が可能であることから、コンタミネーションをコントロールすることが難しいため、汚染物質が排除され、放射性炭素年代測定の工程において大きな誤差が生じないよう厳密に管理された環境での前処理、測定が必要です。

他の分野における加速器質量分析装置(AMS)の利用

考古学、地質学、海洋科学などの調査以外にも、生体医学の分野において、新薬開発のため14Cで標識された試料を用いてAMSが利用されています。

また、AMSはマイクロドージングを用いた薬物動態研究にも用いられています。

また堆積物の年代測定と同様に、海洋における天然レベルの炭素14濃度を測定し、溶存無機炭素の炭素14の三次元的な分布図を作成するためにも加速器質量分析装置が用いられています。


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